ダブルカレッジ大学院講座
温病学講義

講師:肖照岑教授(天津中医学院)
期間:2003年9月19日〜10月28日


1、 授業風景〜写真

2、 講義の1コマ〜温病的視点からのSARS〜



1、授業風景-写真
肖照岑教授
(天津中医学院)
熱意ある講義。

講義は流暢な日本語
で行われます。
パワーポイントを使って
の講義。
大学院生に囲まれて。

皆さん、いい顔しています。


2、講義の1コマ〜温病的視点からのSARS〜
 天津中医学院 肖照岑

 今年、天津でSARSが流行した時、天津中医学院を中心として天津市SARS中医治療指揮センターが設立され、学院の張伯礼院長が総指揮となりました。私もこのセンターの一員で、主に診察を担当していました。SARS病棟から電話で連絡を受けてカルテを作成し、数人の医師で討議して診察を行っていました。

 40歳の看護師ですが、SARSの病棟に入った数日後に発熱、頭痛、全身の筋肉の酸痛乏力などの症状が現れました。その時は市内の各大病院では発熱の外来を設置していましたから、まずそこで診察を受けることになりました。発熱の外来で二日間の治療を受けましたが効果はなく、専門家の診察を受け、SARSの疑いがあるとして専門の病院に入院となりました。私達が診察した日は入院して13日目でした。その時の治療としては、西洋医学的にはリバビリン、抗生物質、多量のメチルプレドニゾロンの点滴を行っており、同時に千金葦茎湯と{大棗瀉肺湯の合方を投与していました。おわかりのように主な病位は肺です。千金葦茎湯については風温のところで説明しました。また呼吸困難があるため、酸素吸入も行っていました。中西医結合の治療を受けて、病情は比較的穏やかな状態が続いており、体温は4日間37℃を維持していました。ほとんど正常です。X線検査を行うと左肺に陰影がありましたが、回復し始めている状態でした。しかし右肺の中葉の陰影は進行している状態でした。その時の主な症状は息切れです。トイレに行くなどして体を動かすと息切れがひどくなります。他の症状としては胃部の脹満感があり、また熱い飲み物を飲みたがり、大便は溏ですっきりと排便できませんでした。舌質は淡紅で胖大、歯痕があります。舌苔は黄厚膩で舌根部は特に厚膩でした。

 十人ほどの専門家で話し合ったところ、三つの問題が出てきました。現在の体温は正常ですが、これは多量のメチルプレドニゾロンで抑制されているからです。通常の何倍もの多量のメチルプレドニゾロンを長い期間使っていたら、ひどい煩躁などの副作用が出るはずです。ですから早く有効な処方を選んでメチルプレドニゾロンの量を減らし、副作用を防止する必要があるのではないかということです。これが一つめの問題です。そして病位は肺であり、同時に肺線維化の傾向が見られます。主な治療原則を何にするか。これが二つめの問題です。またこの患者さんは千金葦茎湯合ていれき大棗瀉肺湯のほか、扶正をはかるために西洋参、黄蓍、冬虫夏草を別に煎じて服用していました。舌苔が黄膩であるこの時期、補薬を使用するかどうかというのが三つめの問題でした。

 主な症状は呼吸困難で、病位はもちろん肺にありますが、ただ単に肺だけを治療してはいけません。なぜなら胃部の脹満や便溏など中焦の症状もあるからです。ですから中焦を通暢して、上焦の粛降をはかることにしました。中焦は昇降機能の枢軸だからです。また肺と大腸は表裏の関係にある臓腑ですから、肺気壅実になると腑気不通になり、また中焦を瀉することにより肺気の宣発粛降の機能を助けることができます。つまり通下法によって肺の熱も外泄することができるというのがもう一つの理由です。胃部の脹満感、すっきりと排便できない、舌苔厚膩などは、湿熱壅滞によって現れている症状です。話し合いの結果、治療原則は通利中焦湿熱、瀉肺清熱、活血化おとなりました。処方は枳実導滞湯とていれき大棗瀉肺湯の合方に桃仁と白芥子を加味したものになりました。白芥子には化痰の作用があり、桃仁には化おの作用があります。補薬については、すぐに服薬を止めることになりました。

 この処方を服用し始めて三日後、患者さんはベッドに座れるようになり、胃部の脹満感、胸悶、息切れも軽減しました。厚膩苔はほとんど消失していましたが、舌根部にだけ残っていました。しかしまだ口苦と軟便がありました。始めは生大黄を使用していましたが、ここで通下の力が弱い熟大黄に変え、さらに蒼朮、浙貝母、丹参を加味することにしました。浙貝母は化痰と軟堅の作用を持っています。丹参は化おです。同時にメチルプレドニゾロンの量を1/2にしました。X線検査では両肺とも顕著な改善がみられました。その後、メチルプレドニゾロンの量をさらに減らして1/3とし、生脈散注射液の静脈注射を行いました。処方は蒼朮を除き、白豆くと山ざ子を加味しました。一週間ぐらいの後、両肺の陰影は完全に消失し、メチルプレドニゾロンは少量を一日一回の使用とし、酸素吸入も中止しました。その後、治癒して退院し、今は健康です。中焦を通暢することで肺の粛降をはかった湿熱性のSARSの話です。

2003年10月21日 東京衛生学園にて講義

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